2010年7月10日土曜日

平野耕太「ドリフターズ」1

ヘルシングが終わったときはあんなすごいもん描いたんだからしばらくあの血沸き肉踊る感じは味わえないんだろうなあと思ってたんですが、そんなちんけな予想はあっさりと覆されてしまいました。買って数日ですがもう何回も読み返してます。サイコー。週明けに図書館へ返却しなきゃいけない本そっちのけで読んでるくらいの勢いです。
というわけでまともなレビューは大手ブログさんがもうとっくに書いてらっしゃるのでそちらをご参照いただくとしてここではあくまで「感想文」を。



色んな分野に疎くまして軍事知識に明るくない私は冒頭で島津豊久が取った「捨てがまり」という作戦がどんなもんだか知らなかったんですが、

座禅陣とも言われる。
『殿(しんがり)の兵を逃走する道筋に沿って、数人ずつ点々と銃を持った狙撃手として伏せさせておき、追ってくる敵軍の指揮官を狙撃する。 狙撃後は槍で敵軍に突撃する。 こうして時間稼ぎをする間に本隊を撤退させる。』 という戦法であるが、狙撃手はまさに置き捨てであり生還する可能性がほとんど無い壮絶な戦法である。
捨て奸 - Wikipedia


という恐ろしく凄まじいものだったと。
そんなすさまじい作戦で命を散らす覚悟をしてきた豊久がいざ漂流先で戦うと「妖怪・首おいてけ」とかひどい言われようなのがなんとも。しかもそれ言ってるのが織田信長だという。
「オッスオラ第六天魔王。趣味は焼き討ち。」
アンタにだけは言われたくない感満載。

豊久・信長と同じく漂流物(ドリフターズ)であり廃城をねぐらにしているのが那須与一というところがお膝元で育った身としてはまたニヤニヤせざるを得ないところでありまして。
「那須資隆 与一にございます」
という名乗りに、あれちょっと待って与一の諱は宗隆で資隆は親父さんじゃなかったっけっか、と思って検索したら『当主に就任後は父と同名の資隆と名乗ったと伝えられる』なんてWikipediaの記述もございまして。ずっと那須与一宗隆で覚えてたんで違和感があったんですが歴史教科書に記載されてるメジャーな出来事でも私が習った事柄と今載ってる事と随分違うらしいですし(1192つくろう鎌倉幕府じゃないなんて!)そういうもんだ、ということでとりあえずは決着。
「妖怪首おいてけ」と「オッスオラ第六天魔王」に挟まれて常識人ポジションなのかなー影薄くなっちゃうかなーと思いきや、初めて顔を出した回で
「むしり候え」
と打ち落としてきた鳥の羽根を信長や豊久にむしらせてみたり、エルフの村を襲って逃げた敗残兵を殲滅して
「逃げた敵はもういませんよ」(強調部は原文傍点)
と不敵に微笑むところなんざもう。こんな可愛い子が女の子なわけないじゃないかと言わんばかりのキャラデザインも相俟ってまさに無敵は素敵。

1巻現在で他の漂流者はハンニバルとスキピオ(ラレとパク)、ブッチとキッド(ワイルドバンチ強盗団)、そして菅野“デストロイヤー”直。この菅野が容姿はともかくしゃべる口調がべらんめえな上に荒井注強化型かっつうくらいの「なんだバカヤロウ」連発。フィクションだからしょうがないよね、なんたってドリフだし。

で、菅野が出てきた直後に「漂流物か、廃棄物か、どっちだ?」と十月機関の大師匠様が言っていたことプラス、廃棄物(エンズ)の統帥たる黒王の陣中にいる九郎判官義経が黒王にお前はどちらだと訊かれて
「さあね 面白そうな方さ」
と答えるあたり、廃棄物の定義である「非業の死により超自然的な能力を得て、生前とは変わり果てた人格」というのに当てはまるのかどうか、そもそもドリフとエンズの境界線はどこに引かれるのかというのは、あの扉だらけの廊下にいる紫と別空間にいると思しきEASY以外はあの世界で強い能力を持っているはずの大師匠様にさえ判らないのかもしれません。

廃棄物は土方歳三(他隊士のオーラとともに石壁でさえぶった切る)、ジャンヌ・ダルク(火炎発生貧乳)とジャンヌの後ろに控える謎の男(ジル・ド・レ?)、アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ(吹雪発生皇女)と後ろに控えるラスプーチン。そして黒王。
この黒王が一体歴史上の誰なのか、というのもこれから先読んでいく中で大きな謎として横たわるのだろうと思われます。蜻蛉をあしらった杖、傷だらけの体、人類とその世界全てを滅ぼす決意を持つほどの深い恨み、とキーワードを見れば博学な方には察しがつくのかもしれませんが、そうでない身の私としましては続刊以降を高鳴る胸を押さえつつ首を長くして待つ所存であります。まあENDSってくらいだから遠藤遼一でいいじゃんという話も(存命の方ですよ?)

さて、この手の古今東西英雄集結祭りってのは山田風太郎「魔界転生」をはじめ色々あるわけですが、私と同じ世代でゲーメスト愛読者だった方には「ワールドヒーローズ」が記憶に強いようで。あいにくそうでない自分はその話を聞く度にリアルタイムでワーヒー読んどくんだったなあと悔しがりつつも
「ワーヒーっていうと漫玉日記で締め切り直前の日付を『アーヒー日』って書いてたの思い出すなあフヒヒ」
などと思っていたわけですが。
まさかカバーめくったら「幽玄第六天王日記」に当たるとは思いませんでした。笑ってはいけないシリーズでタイキック喰らってもしょうがないくらいの衝撃でした、ハイ。

2 件のコメント:

  1. 黒王はキリストっぽいですね。

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  2. Rabe様、コメントありがとうございました。
    それっぽい要素とそうでもなさそうな要素が今のところ混在しているとは言え一番有力なのはそこなんですよねえ。正体が確定していないから可否どちらの要素も検証して、もしくは確定したものと看做しておいてそれっぽくなさそうな要素はどこから引いてきたものか類推して、など現時点では色々な楽しみ方が出来そうです。

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