2011年10月26日水曜日

平野耕太「ドリフターズ」2

しばらく感想文カテゴリを更新していなかったんですが、発売日から二週間ほど過ぎちゃったし書いちゃいましょうか、ということでドリフターズ2巻の感想です。一応間も開いたし内容について書いてもいいよね、と思いますが一応続きに畳みます。畳んでも検索エンジンからエントリに直で飛んできた方には無意味なのよねん、という事実については目を背けることにいたします。

テキストエディタに打ってたら「ひたすらあらすじ列挙するだけマン」の悪癖が出たから最初からやり直したのは世界のみんなとぼくとの秘密だよ!





表紙は織田“右府”信長。
1巻の巻数表記が豊久の服装と同じ赤基調だったのに対して今回は青。それに引きずられてか信長の髪や服装の薄墨色も青みがかって見えます。1巻と並べると豊久の装束や剣についた血で燃えるような赤主体の強い色遣いだったのとは対照的です。
この彩色の違いが豊久と信長の違いでもあるのですよね。真直ぐにとにかく突っ込む猪武者な豊久と、権謀術数張り巡らせて「ここに至るまで何をしてきたか積み上げてきた結果が戦の勝敗」と言う信長。

このいかにも合わなそうな二人が衝突する描写も幾度かあります。
オルテ国の代官居城へ攻め込んだ時に攫われていたエルフの女性たちが慰み者になっているのを目の当たりにして城兵たちを根切り(=皆殺し)にしようと激昂する豊久と、あくまで豊久にはそういう「汚れ仕事」をさせたくなくて号令を発さんとする豊久を殴りつけ昏倒させてまで自分が鏖殺の号令を取る信長。
また、エルフ軍の統率を村長たちの合議制にすると決めた豊久に対し、どうしても豊久をこちらの世界の王にしたい信長が食って掛かったり、
信 ぬしゃ 人ん頭ん内を読むのは何でも見抜く
じゃっどん 人ん心ん中で思っちょることを見抜けん

と豊久に看破されたり。
しかしながら作中にも描写されている通り、豊久と信長の関係は親子にも似たようなものでもあります。
互いに自分の息子や父親と重ね合わせては相手に「俺は息子(親父)じゃない」と言われて狼狽える様も、その際の与一を交えての乱闘じみたじゃれ合いも、前述の代官居城で自分が号令を取ったことに対して「手が汚れるのには俺は慣れてる」と嘯く信長を豊久が思いっきり殴りつけ「そんな事(そがいなこつ) 俺(おい)に関係無か!」と言い放ったのが「ケンカではない」のも、彼らの間に戦略や打算などを超えたものが流れはじめていることの表れなのだろうなあと思います。

そして与一。
那須与一宗高公石像@道の駅・那須与一の郷
えーと、那須与一宗高公の方じゃなくて、「那須資高与一」の方の与一。
彼は彼で1巻ではどこか悟ったような超然とした様子でしたが、今巻では魔術の札の存在で自分が今まで苦労して片言でもエルフ語を覚えた努力が無駄だと崩れ落ちてみたり、弓の練習をするエルフたちに交じって皆中に次ぐ皆中(それも全て的の真ん中、2射目以降は前に当たった矢を射貫いて裂くという離れ技)を見せつける大人げなさ、攻め寄せてきた廃棄物のジルドレに対して急所をことごとく射貫いているはずなのに倒れないことへの焦りを抱いたり、と人間味ある面を見せてくれます。
また、信長の作戦については「武士(もののふ)の道に反するやり方」を平然と行うかつての主・義経のことを思い起こして心が揺らいでいましたが、その義経が黒王軍に同行(義経自らはまだ漂流物とも廃棄物とも決めていないとはいえ)しているということを知ったらそれ以上に心が揺れ動くのかなあと思うとその描写をされる回が来るのが楽しみなような怖いような。

オルミーヌ。
魔導士結社・十月機関の魔術師である彼女は信長から名前を故意に言い間違えられ(オッパイメガネ・オッパイーヌ・オルミーオッパイ・オルミー乳)たり胸を鷲掴みにされたり、というセクハラにも順応したり動じなかったりする胆の太さを持ちながら、戦国武将の死生観や信長のうんこ作戦(手段がうんこ、本来の意味で)に戸惑ったりと、どちらかと言うと読者寄りの立場でドリフの面々の度を超えた部分に驚いたりツッコんだりしてきました。
ジルドレを従えてやってきたジャンヌ・ダルクが炎で豊久を襲った時には「漂流物を守るののが我等の使命ッ!」と見得を切りつつも、未熟な身で壁を出すしかできず、そのための札も残り2枚という心もとなさからかその表情には怯えも見えます。
前作「ヘルシング」で再三再四言われてきた「化物を倒すのはいつでも人間でなくてはいけない」というテーマ、それは漂流物にももちろん流れていますが、このオルミーヌにも流れているように思います。怯えながら、震えながらでも立ち向かっていこうとする強さ。

廃城三人組以外の、エルフたちとは別行動を取る十月機関のお師匠様やハンニバル・スキピオ・ワイルドバンチ強盗団とはまた別のドリフも今巻ちらりと登場します。
オルテの輸送船に巨大な鳥に乗って上空から油を放つ兵が「トゥラトゥラトゥラー!」と快哉を放つ、その言葉を教えた「提督」の姿は雑誌掲載時は描かれていませんでしたが、単行本では描かれています。
山口多聞。ミッドウェー海戦で空母「飛龍」と運命を共にした海軍中将が、その飛龍と共に漂流物としてこの世界に来ていたと。総員対艦を命じて自分は飛龍と殉じた、というところが「ヘルシング」のペンウッド卿と少し重なる部分があるのですが、名将と誉れ高かった山口多聞がこの世界でこれからどういう戦いを見せてくれるのかも楽しみです。
敵か味方かカーボーイ、もといサン=ジェルミ伯。名前から容易にサンジェルマン伯爵を想起させるのですが、オルテ建国前に国父に味方したことが一番の功績である(オルテ建国は50年前、その時から今に至るまで恐らく同じ容貌)というその経歴もこれまた。化粧の濃い怪しいオカマというキャラ立てでありつつも切れ者・食わせ者なにおいがプンプンしますのでこの手のキャラクター大好きな私としては次の出番をワクテカしながら待ち望まざるを得ません。彼は果たしてドリフなんでしょうか。
オルテ国父、なんか見慣れたチョビヒゲ生えてましたね。書かれていたこと以上のことはこの先紙面割かれることもなさそうなのである意味前作の名残というかおまけなのかなー、と。

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あとがきゆかい漫画もカバー下のあれこれも相変わらずのクオリティ。黒王様相変わらず快調に御乱心なさっております。あと1巻・1.5巻(アワーズ2010.10月号付録)でも散々言われてたアナ○スタシアさんとムーディ土方さんまで一緒になってひどいなお前ら、と。……いや、黒王様確かに間違ったこと言ってないんですけどね通説的には。

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